ぴぃち
「昨日はお熱かったようですなぁ」

ぼぉっとしていた怜に、溜め息とともに万作が話し掛ける。

「ん〜…むしむししてたょねぇ?」

まだぽやんとしている怜はふにゃりと笑う。
その顔に大きく溜め息をつき、万作は小声でまた言葉を紡ぐ。

「違うよ〜圭とラブラブしたんでしょってこと」
「ぅ〜///何でゎかんのぉ〜?」
「だってねぇ…耳の後ろでしょ、首筋でしょ、背中にも〜キスマァク」

万作の言葉に怜はきょとんとした後、かぁっと顔を朱くした。どうやら知らなかった様だ。

「ぅゎぁ〜けぇのばかぁ〜見えるとこはダメじゃんかぁ〜ばかぁー」
「んぁあ?…何なのいったい…」

晃に監視されつつ(怜の監視は万作)作曲していた圭が、急にそれも自分を馬鹿と叫ぶ怜に、あからさまな機嫌の悪い声を上げる。

「ばかぁ…最悪ぅ…」
「は?意味わかんねぇ」
「見えるとこはダメって言ったし!」

頬を膨らます怜に圭は眉を寄せる。
圭には全く分かっていないようで、怜をいらついた表情で見る。

「圭でしょ?怜のキスマァク」
「……あぁ。」

少し考えた後で納得したように声を発した。

「あー。てか、怜。気付いてなかったわけ?」
「…俺には見ぇなぃじゃんか」
「……もぅ別にいいじゃないの?(今更だし)」

呆れた様子の万作がぽんと怜の肩を叩く。晃から詩を書かせろ的なオーラが、痛いほど万作に突き刺さる。圭にも同様であろうが何もないような顔をして、怜をからかって遊んでいる。

「ぅ〜一週間くらぃ消ぇなぃのにぃ〜」

ぶつぶつ言いながらも晃の痛いオーラに負けて、詩を考え始める。
圭は圭で全くと言っていいほどやる気がないようで、欠伸を噛み殺している。

「圭…やる気出してくれないと」

「んー俺、ヤる気はあるっすよ?」

「あはははっ!圭らしぃっての!!」
「…やをカタカナにするなよ…」

圭の一言が、万作のツボを突いたらしく腹を抱え、笑い転げている。
晃は大袈裟な溜め息を吐いて今日の収穫がないのを確信した。

「ぁー圭サイコー…お腹痛い〜」
「出来た!!詩完成!晃くん!」

集中していて聞いていなかっただろう怜が、完成した詩を晃に手渡した。その後すぐに圭の背中にぎゅっと抱き着く。

「け〜ぇー終ゎったょぉ〜?ぁれ万ちゃん何笑ってるわけ?」
「ん〜秘密!今日も頑張りなよ怜。あはははっ!」

笑いが止まらない万作は笑いながらバシバシと怜の背中を叩く。万作の目には笑いすぎて涙が滲んでいる。晃は諦めたはずの収穫がありほっと胸を撫で下ろしている。

「??ぅん…?」

よくわからないまま万作の言葉に怜が頷く。

「頑張ってくれんの?じゃぁ俺も頑張るかな…」
「ほどほどにな?」

妙に冷静、否諦めの強い晃がさっさと怜が完成させた詩を鞄の中にしまう。

「あーお腹痛い…晃くんっ今日はもう帰る?」
「圭はやる気ないしな…今日はここまで」

晃の言葉にぱぁっと怜が目を輝かせる。

「だって!けぇ帰ろぅ?どっか寄ってく?」
「帰る帰る。ゆっくり風呂入りたい…あちいし」
「俺も入る」

ぼそっと怜が言う。圭は、怜の言葉に一瞬驚いた顔をする。

「一緒に?」
「ぇ…ダメ?」

「何々?一緒にお風呂〜?ラブラブ?いいなぁ」

万作が晃を見ながら、唇を尖らす。
晃は迷惑そうに、圭に抱き着いている怜を見遣る。その視線に気付いた圭が申し訳なさそうに、晃に頭を下げた。

「ね!けぇ〜帰ったらぁェッチしょぅ?」
「…怜」

「やだー破廉恥☆」

上目使いで圭をじっと見つめ、ぺろりと唇を舐める怜に、眉間にしわを寄せ、そんな怜を見る圭、二人を見てケタケタと笑う万作。

「お前ら……好い加減にしろ!」

作業も進まない上、こんな風に遊ばれたのでは晃の我慢も及ばない。

「っ!!」

ビクッと怯えた表情をしたのは怜だけで、後の二人は平然としている。

「晃君。俺、怜連れて帰ります…明日、曲作って持ってくるんで」
微妙な敬語で晃の機嫌をとりつつ、怜を連れて部屋を出た。



「晃君ちょぉ恐ぃし!」

タクシーの中に入ってから怜は、圭の膝の上に向かい合うに座る。圭も降ろそうとはせず、怜の細い腰に腕を回している。
タクシーの運転手にとっては迷惑窮まりないだろうことだろう。

「けぇは、晃君恐くなかった?」
「別に…」

むぅっと拗ねて、唇を突き出している怜をじっと見つめていたが、フと目線を反らした。

「むっ…目ぇ反らしたぁ〜何で?」
「別に」

怜は座り方を変え、圭の膝を跨ぐ形で膝立ちする。

「ちゅぅしょ?」
「…は?」

眉間にしわを寄せた圭を無視して、ちゅっと唇を合わせる。
タクシーの運転手には本当に迷惑だ。

「けぇの唇カサカサしてるぅ」

怜の言葉に圭が無意識に唇を舐める。リップを持ち歩いている怜は、鞄の中からそれを取り出す。
そして、蓋を取り中身を繰り出すと圭の唇に塗る。

「…甘…」
「ピーチ味☆」
「味…?ありえねぇ」


二人の世界を作っている間にマンションに着いた。

タクシーの運転手がぐったりした表情をしていたのは言うまでもないだろう。


Fin






怜はピ―チ好きと勝手に決定しているのは、お分かり頂けたはず。
「あほちゃう?」って思ってください。
兎に角!!怜は甘いもの「だぁいすき」な「わがまま」「おれさま」「乙女」なんです。
誰か分かって…(汗)

2004/9/1   .t