普段なら、外でベタベタすることを嫌がる笠井も、今の格好なら許せるようだ。今の格好と言うのは、寮母さんが姪の為に買ったが、その姪には「いらない」と言われてしまった（寮母さんの話より）藍色の生地に桔梗の花をあしらってある浴衣だ。
何故、笠井がこの浴衣を来ているかと言うのは数時間前にさかのぼる。
練習後
「タクー！！今日お祭り行くよな？」
あれだけハードな練習の後なのに、藤代は元気そのものだ。
「え…行こうかな」
笠井の言葉に、嬉しそうに笑う。それにつられて笠井もにこりと笑顔を浮かべた。
談話室にて
「キャプテーン！！祭行くっすよね？」
「ああ、藤代がか行くぞ」
「三上さんはどうしますか？おれは行こうと思いますけど…」
「…竹巳が行くなら行ってやるよ」
その会話を聞いていたのか、たまたま通り過ぎた時に聞こえたのか寮母さんが、談話室に入って来た。
「お祭り行くなら浴衣着て行かないかい？」
寮母さんの発言に、藤代が勢いよく賛成する。
「俺浴衣着たいっす！！」
その発言により、寮母さんに浴衣を着せてもらうことになった。
「笠井くんにはこれを着て欲しいのよ」
そう言って寮母さんが見せたのは女物の浴衣。
「え…あの……」
「いいじゃん！タク似合うって！」
「笠井、その色と柄なら違和感ないと思うぞ？」
「着てやれよ、竹巳」
笠井が断る間もなく、藤代、渋沢、三上が着ることを勧めた。
「良く似合うわぁ…ねぇ？」
前髪を浴衣に合わせたピンで留め、青に近い紫の帯は華やかさが伺えるような蝶々に結ばれている。
「やっぱタク似合うじゃんか！！」
「祭な感じだな」
「へぇ…竹巳可愛いぜ？」
「あんまり嬉しくないですよ…」
それぞれに口を開く。無論みんな浴衣姿だ。
藤代が渋沢の腕を取る。
「早く行きましょうよ！！」
カランコロンと笠井の履く下駄が、音を鳴らす。
無いはずの胸には、タオルが入れられているので、今の笠井はどう見ても女の子だ。
「ねぇ、一人？」
声にフとそちらを見れば、髪を嫌らしいほどに明るい茶色に染た仁平姿の男が、歩調を合わせて隣を歩いている。
「お、可愛いじゃん〜名前教えてよ、何か奢ってあげるしさ、」
「……」
あからさまに嫌な顔を笠井は浮かべる。確かに今の自分は男には見えない。が、チャラチャラとした馴れ馴れしい態度が、笠井をイラつかせた。
「そんな顔しないでさぁ〜名前は？」
答えない笠井に焦れてか、男が腕を掴む。
「ちょっ…ヤメ〜ぅわぁっ」
男に掴まれてないない方の腕をぐいっと引かれ、腕の中に閉じ込められてしまった。
「竹巳ちゃ〜ん？なーに男引っ掛けちゃってるのかなあ〜？」
「三上さん！？別に引っ掛けてませんよ！！」
男は三上に聞こえる様に舌打ちし、その場を去った。しかし、三上は笠井を未だ腕に抱いたままである。
「離してくださいよ…恥ずかしいです…」
キッと睨まれ、渋々三上は笠井を開放した。
「バカ代はさっさと行っちまってるぜ？」
珍しくすんなりと笠井を放し、進もうとする三上を笠井が小さく呼ぶ。
「三上さん…」
しかし、三上は返事をしようとしない。
「〜っ…亮さん！」
「何かな、竹巳さん」
「拗ねないでくださいよ…あれじゃ歩けないでしょう！」
チッと舌打ちし三上が顔をしかめる。
そんな三上に分からない様、小さく笠井が溜め息を吐く。
「あれじゃ歩けないですから、こうしましょう？」
にこっと可愛らしく首を傾け、右手を三上の方へ差し出す。三上はその手に左手を重ね、ぎゅっと繋いだ。
「ま、ナンパされねぇようにな。」
「これなら大丈夫ですよ？」
こうして文頭の様になったのだ。
「あ！タクー遅いよ〜」
いつの間にか綿菓子にかき氷、林檎飴、イカ焼きなど色々な物を買っている藤代が神社の石段に座っていた。
「誠二が早過ぎるんだよ…」
「そんなことねーもんってあー！！タク、三上先輩と手繋いでる！ずるーい。キャプテン、俺らも繋ぎましょう！！」
藤代の発言にただただ、呆れる三上と笠井。渋沢も苦笑を浮かべて「荷物はどうするんだ？」と藤代に言った。
帰寮
「浴衣って疲れますね…」
「下駄がな、それより…脱いじまうの勿体ねぇよな、それ」
真面目に言う三上に笠井は大袈裟に溜め息を吐き、さっさと浴衣を脱ぎ寮母さんに返しに行った。
次の日、何故か中西が「笠井の浴衣姿には癒されるねぇ」などと言われ、辰巳には「もっと似合う浴衣を貸そうか？」何て話し掛けられ、いつ見られた見られたのだろうと、笠井を悩ませた。
fin
因みに笠井の（女物の）浴衣姿は辰巳のカメラに納められていて、その写真の売り上げは上々らしい…
携帯で知り合いに送りつけたやつです。
浴衣姿の竹巳ちゃんがみたかったのよ！！！
絶対可愛いよねー羨ましいわ…三上が。
2004/8/31 ．ｔ