見つめて?
皆が寝静まっているはずの深夜。今の時期はマイナス6時間の時差で、オリンピックが放送されている。
スポーツ好きでなくとも見てしまうのは、圭と怜も例外ではないようだ。否、圭が見ているから怜も見ていると、言った方が正しいだろう。

「足長ぇ…綺麗なぁやっぱ…」
「……そぉですねぇ(-"-)」

怜もシンクロだの体操だのに出てくる女性選手は、すごいと思うし、綺麗だとは思う。
しかし、自分や万作の言うのと違い圭が言うと、怜には厭らしく聞こえる。

「機嫌悪ぃ?」
「そんなことにゃい。」
「そ?怜見てないだろ。じゃぁさ、冷蔵庫から酒持ってきてくんね?」
「……はぁ…」

画面を見たまま自分に話し掛ける圭に、わざとらしく大袈裟に溜め息を付いてから立ち上がり、冷蔵庫に向かった。
中から缶ビールと自分用の缶チューハイを取り出し、圭の隣に座る。

「はぃ、けぇの」
「んー…」
「…けぇのばか」
「お前よりまし」

普段喋らない圭に、よく喋る怜が口では敵わない。ボキャブラリーの差、だろうか。

「…怜?…何、拗ねてるわけ?」
「拗ねてないし。」

手に持つ甘いピーチ味のチューハイをコクりと飲み込む。その甘さに少し、気が安らぐ。

「……けぇは…綺麗な人…好き?」
「……?」

唐突な質問に目線をテレビ画面から、怜に移す。質問と言うよりも、決定された事を述べただけの様だった。確かに、間違ってはいない。
怜の周りには色とりどりのチューハイの缶が並んでいる。
その殆どが空き缶の状態になっている。

「怜…酔ってるな」
「むぅ…酔ってにゃぃ」

拗ねているだけで、そこまで機嫌が悪くないとふんだ圭は、またテレビ画面に視線を戻した。

「けぇ…楽しぃ…?」
「まぁ、おもしろい」

ぼそりと話し掛けた怜は、横にある圭の腰にぎゅっと抱き着く。

「何?」
「にゃー」
「……;?」

突然の意味不明な怜の行動に、圭は少し驚く。
が、完全に酔ってるな、と頭の中で怜を位置付け、何事も無かったようにテレビに視線を向けた。怜が気にならないわけではないが、ほっておくのも圭なりの恋愛の駆け引きなのだ。
その間も圭の腰に抱き着いたままの怜は、動こうとしない。

「はぁ…;」
「むぅーっだ」

どうやら相当拗ねているらしく、頬を膨らませ、わざとらしく怜は圭と目を合わせないようにしている。
そんな怜を無言のままで頭を優しく撫でる。一瞬びくりと体を強張らせた怜も、圭の優し過ぎるような撫で方に、ちらりとだけ圭の顔を見る。

「…何拗ねてんの?」
「むぅ…だって…けぇ俺見なぃじゃんか」

確かにテレビばっか見てたけどよ、んなに拗ねることか…?

喉元まで出かかった言葉を飲み込む。言えば更に怜の機嫌を損ねるだけだ。
自分の腰に回されている細い腕をぐいっと引き、怜と目が合うように胡座をかいた上に座らせた。

「……なに?」
「んー怜見てる方が面白いから。」

ぱちぱちと瞬きをしていた怜は、また、ぷうと頬を膨らませた。

「俺はぉもしろくなぃ」
「……どうしたいわけ?言わねぇと、俺にはわかんねぇよ」

きつくならないように言ったつもりだったのだが、怜は眉を八の字にしてしまっている。
少しの間顔を伏せた怜はきゅっと、口を一の字に結び顔を上げた。

「けぇテレビばっかじゃん…俺構って欲しぃのに」
「…ふぅん……構って欲しかったわけ?何、じゃぁベット?」

きょとんとした表情していた怜の顔が、ぽんっと朱く染まる。

「〜っ///けぇの頭ん中ぇっちしかなぃの?!テレビより俺見て欲ぃだけだし!!」
「あ、そぅ?残念…誘われてるかと思った」
「誘ってなぃし!」

力いっぱい否定した後、怜は圭の上から退く。そのまま寝室まで早足で行き、ばたんっと大きな音を立てて扉を締めてしまった。締める前にしっかり「けぇのばかっ!!」と叫んでから。

その後、扉を開けようとする圭に反発してはいたが、怜が圭の力に勝てるわけも無く、たやすく扉を開けられてしまった。
散々圭に悪口を言っていた怜は機嫌のよろしくない圭に、朝方まで寝かせてもらえなかった。
怜が昼、起きてから気持ち良さそうに眠る圭を無理に起こしてしまい、もう1、2ラウンドあったことは言うまでもないだろう。


End




はい。これの圭の感想は正真正銘俺です。
だって綺麗やと思わん??
てか体柔らかすぎ。ちょっと怖いくらいっすよ。

2004/9/1   .t