狂想曲…第3   [宿題]
朝6:30。
鞄の中には、少ない時間で付け焼刃にした楽譜と財布、携帯。
頭の上にはデニム生地のキャスケット、頭の中は母親が作曲した曲が流れる。
見た目には軽いカジュアルな服装。心は両親からのプレッシャーでずっしりと重い。
出来るだけ音を立てないように部屋から外に出た。閉めたドアを背にして大きくゆっくり息を吐く。まるで深呼吸のように。気を引き締めて歩き始めた。

6:45
駅前。迎えに来たのは嫌味なベンツ。中から出てくるのは大嫌いな両親。お父様にお母様。どちらもコンサート用の衣装を着て、カジュアルな格好の自分を嫌な目で見る。でも、そんな服、わざわざ持っていかないでしょ。寮にはさ。
ベンツに乗り込んで、コンサート会場まで。朝早いのは練習するためと、会場の音を見るため。

「竹巳、向こうに衣装があるから。すぐに着替えなさいよ」
「わかってます。」
「曲は覚えているんだろうな?」
「大丈夫です。」
「テレビカメラが来ているから、失敗は許されないのよ?」
「はい、お母様。」
「笠井の名を汚さないようにな」
「はい、お父様。」

7:00
会場に到着。スーツ姿の人と警備員に案内されて控え室に入った。
置いてあるのは「コンサート衣装」。さっさと袖を通して着替える。本当は一秒でも着ていたくない。
趣味じゃないし。
部屋に設置してあるピアノに座って、楽譜を取り出して、弾いてみる。完全な防音になっているから外には聞こえない。自分だけの世界のはずが、やはり母親の作った曲。
自分だけじゃない。

「あーせっかくの土曜なのに…練習もないのに。だらだらしたっかたなぁ…」

コンサートまで後3時間。




「あーーーー!!!!?」

松葉寮ないに藤代の叫び声。
このとき7:00ちょうど。

「うるせぇぞ!バカ代!!」
「今何時だと思っているんだ…」

談話室に入るなり叫んだ藤代に、三上、渋沢が注意をする。
藤代は慌てたようにきょろきょろとしていた。

「タクがいないんすよ!」
「笠井がか?」
「はい。俺が起きたときにはすでに」

談話室かと思い来てみたが、やはりいなかったらしい。
キャスケットなどがないことからどこかに出掛けたであろうことが推測された。笠井が何も言わずどこかに行くなんて今までにないことなのだ。少なからずみんな心配してしまう。
藤代は笠井にメールを打つ。

件名
タク何処にいるの?
本文
タクー(;x;)何処にいるの?
起きたらタクいないし、何も言ってないから心配じゃん。。。

2、3分後に笠井から返信が帰ってきた。

件名
ごめんね
本文
ごめんごめん、用事かあったんだよ。
暇なら10時から6チャンネルしてみて、理由がわかるよ。

「どういうことっすかね?」
「さぁな、取り合えず、10時に6チャンネルだな」

笠井からの返信に少し安心した様子で、朝食をとった。


8:00
コンコンとドアをノックされる。

「はい」
「おはよう。竹巳」

ドアの前に立っていたのは、両親曰く「ライバル」らしい滝川信二(たきがわしんじ)。

「滝川…何か用事でも?」
「いいや、朝食がまだらしいから、一緒にどうかなっと」

笠井はあまり滝川が好きでない。馴れ馴れしい態度がどうも、好きじゃないのだ。
ピアノの腕は確かに上手いが、オリジナル性に掛ける。両親もそう言っていた、認めたくないが同意権だったのだ。

「ここに運んでもらうつもりなんで、遠慮します。」
「そう言うと思って、ここに持ってきてもらったんだよ」

にこりと滝川が笑う。
笠井は溜息を吐いた。こいつには何を言っても無駄だった。小さい時からそうだ。
こっちが答えるであろうことを予測して、対策を立てている。そこもまた気に食わない。
昔から、しつこく自分の計画通りに進めたがる男なのだ。

「はぁ…食べますよ」
「竹巳と一緒に食べれるなんて嬉しいよ」

笠井は仕方なく滝川を控え室に招きいれ、一緒に朝食を取った。


9:00
「竹巳、楽譜を持っていらっしゃい」
「はい、お母様」

楽譜をもって舞台の上に立つ。今からリハーサル。生放送とかするらしい。だから藤代に教えた。自分の口から言うよりも分かりやすいし早いと思ったから。
綺麗に磨かれたピアノの前に座る。正直、この様なコンサートに使うピアノは好きじゃない。
鍵盤を一つ押してみる。気持ちの悪いほどに正調された音がホール内に響く。楽譜の初めから音を奏で始めた。
途中まで弾いて、止めた。どうせ、リハーサルなんだ。

「覚えているようね」
「武蔵森にいたいですから」
「…そうだったわね。演奏楽しみしているわ」

嫌な顔して。
武蔵森にいる為には定期的に出される両親からの宿題、つまりは両親の作った曲をコンサートで演奏する。それも完璧に。これをクリアしなければ、音楽専門の学校に転校させられる。
自分たちの後を継がせたいのだ。音楽家として富と名誉をもった自分たちの後を。

コンサート開始まであと30分。




竹巳さんの両親に対する気持ちが分かっていただけた??
滝川くんはのちのち活躍。この人も有名なピアニストってことになってる。
ってか三笠なのだろうか???

2004/9/19   .t