肩。
強豪と言われるだけの練習をこなし、疲れた体を引きずる様に武蔵森サッカー部レギュラー人が松葉寮に帰ってくる。
「きょっおのご飯はなんだろなっ♪」
「ハヤシライスとかじゃなかった?」
「藤代、あまり走るなよ?」
「バカ代、お前うるさい。」
先頭を切って帰ってくるのは、元気がとりえな鳴きホクロのエースストライカー、藤代。それに腕を引かれて帰ってきたのはネコ目の黒髪美人、笠井。その光景を微笑ましく眺めながら藤代以外には腹黒いキャプテン、渋沢が、そしてエロ目でタレ目の司令塔、三上。
「つかれたよー」
「ねぎっちゃんはもうちょっと体力いるよねぇ。あ、笠井もかぁ」
「三上に聞かれたら後が怖いぞ?」
「いつものことだろ、気にしてると監督みたいになるぞ?」
上から、間延びした声をあげているのが不幸な根岸。その根岸にエセくさい笑みを向けて、何気に爆弾を落としているお姉言葉は帝王こと中西。それを心配しているのが失われつつある良心を持つ近藤。もうすでに諦め、結末まで予想しているのは松葉寮寮長の辰巳。
個性的な武蔵森イレヴンの面々。(個性的で済ますのか?)
「タク−お風呂いっこうーよ?」
「はいはい、誠二ちゃんと着替え持ったの?」
「だーいじょーぶ!!」
何故かしら自信満々の藤代。毎回のごとく藤代が忘れ物をするので、すっかり笠井の出かける前必ず言う口癖の様になってしまっている言葉と、毎度同じ答えのいつもと変わりない会話。
「森ジャニは仲いいなぁ」
「犬猫コンビだからねぇ、ほのぼのすると思わない?」
大浴場に向かう藤代&笠井の後からのんびりと辰巳と中西が(根岸を引きずりながら)歩く。
ここで補足しておく。森ジャニとは2年藤代誠二と笠井竹巳の二人のことである。それと同時に犬猫コンビもこの二人のことだ。
「げっ。何で三上先輩いるんすか?」
脱衣所には先客の三上、近藤、渋沢の姿が、服を着ていることから着たばかりということが予測された。
「珍しいですね?いつもはもっと遅い時間なのに」
当たり前の様に三上の隣に連れてこられた笠井が問う。「ん?たまには、な」と誤魔化しのような返事を返し、服を脱ぎ始めた。
まぁ、笠井も特に気にした様子もなく、お風呂セットを持ち大浴場に入った。
「あ、笠井、笠井。」
にっこりと怖いくらいの笑みを浮かべ、中西が話し掛けてくる。蛇足かもしれないが、笠井と中西は何故だか仲がいい。(どこかにているところがあるのだろうか?)
「何か用ですか?」
笠井が手招きする中西の方に行くとそこには、辰巳、近藤の姿も在った。
「ほらねぇ、俺の言った通りでしょ?」
「あー確かに。」
「これでまぁ、大丈夫なのが不思議だな」
言われている笠井当人には、訳の分からない会話をする三人。
「お前ら、俺の竹巳ちゃんがどうかしたってか?」
するりと笠井の腰に手をまわし、三上が軽く三人を睨みながら問うた。
「んー?笠井は白くて細いよって話し」
確かに笠井は筋肉のつきにくい体質なのか、サッカーをやっている割には細い足と体。肌は本人曰く、「焼けても赤くなって痛いだけなんですよ。色とかほとんどかわりませんよ?」らしい。
バシャーン!
三上と中西の討論がえらくヒートアップして来た頃に、大きな水音が。犯人は言わずと知れた我が部のエースストライカー。これでもレギュラーで、東京選抜の9番を背負っている。
「こら!誠二、飛び込むなよ!」
「藤代、周りに迷惑だろう?」
松葉寮の母二人。上は新妻の笠井さん、下の渋沢はもうすでに姑、ではないだろうか…?
「ぶー、いいじゃーん」
「よくないよ、それにおもちゃもやめなよ…」
呆れる笠井に、悪びれる様子もない藤代と、いつもの風呂場での光景が繰り広げられる。
バシャバシャと音を立て浴槽内を泳ぐ藤代に笠井が、泳ぐなと注意する。泳ぐのをやめたかと思うと、水鉄砲を乱射しだしまた笠井に、せーいーじー?と怒られる。果てには何故かしらビーチボールを取り出し、投げ出す。流石は名門サッカー部と言うべきか、投げられたボールが来ると皆が揃いも揃って藤代に打ち返してしまう、そこにまた笠井が健気にも、やめなよ、危ないだろ?と注意する。これはいつもの光景のなだが、藤代に落ち着きがないのかはたまた、笠井が落ち着きすぎているのか、とりあえずは仲がいいことが分かるのではないだろうか。
「竹巳ちゃん、バカ代ほっといてこっちおいで。」
誘っている様でいて拒否権を与えない、いつもよりも低い声の三上の呼びかけに、しぶしぶその隣に移動する。ぱしゃりと小さな水音がし、笠井が腰をおろした。
「はいはい、どうしました?」
少し首を傾げて見たりして、明らかに機嫌を損ねている三上のご機嫌を窺う。それくらいで機嫌を直すような三上ではないのだが。案の定まだ、眉を寄せて険しい顔をしている。
「…もぅ、どうしちゃったんですか?誠二に構うくらいいつもの事じゃないですか」
少し甘えた口調にしてみるも、三上は笠井の腰に腕をまわし、抱きしめるだけで。こつりと肩に三上の額が当たり水を含んだ髪が、肌をなぞる。
「あの…本当にどうしたんですか?オレ何かしました?先輩」
「亮」
久しく聞いた三上の声は、いつもよりも少し低い。機嫌を損ねているのが良く分かる。
「もぅ、あ…亮さん…///」
「ん。許す。」
いったい何を許すなのかは分からないが、機嫌は直ったようだ。
浴槽の一部でこんな甘い雰囲気を出していようと、この寮では普通に成ってきているのか誰一人として何も言わない。否、訂正を藤代だけは違った。
「タク−っ!!あっぶなぁーい!!!」
バシャンッ。
「ぅわっと…誠二…」
「…バカ代が、貴様何考えてやがんだ!!」
勢いよく三上と笠井の間、ではなく笠井に抱きつく藤代に当人は呆れ、三上は切れる。
「何って、大事なタクが三上先輩なんかに襲われそうになってるから、俺が助けただけっスよ!」
きっぱり言い切る藤代に傍観者たちは笑い出した。これもいつもの事。
「よくやった藤代!」
「三上、ご愁傷様。」
「逃げといでよね、笠井」
など様々に現状を楽しむ松葉寮生たち。成れとは怖いものだ。ちなみに上から、辰巳、近藤、中西だ。小さくて招きをする中西を通り越して笠井は、風呂場を後にする。脱衣所にはいる前に、今だ何の意味もなさそうな討論を繰り返す三上と、藤代を振り返り一言。
「誠二、早くあがらないと晩御飯まだだろ?三上さんも、これ以上騒いでるつもりなら、外で寝る事になりますよ?」
さらりと言い切った後、二人を見て笠井はにこりと笑った。
そんな他社から見れば天使の微笑みも、藤代と三上からすれば恐怖以外の何者でもない。笠井は普段温厚だが、怒るととてつもなく怖いのだ。(体験者は語る。)
その場にいた者は皆、一様に思った。
(笠井だけは怒らせない方がいい。とゆうか怒らせない様にしないと。)
その笠井に平然と話し掛ける渋沢と中西にも、注意が必要だといいことも付け足して置こう。
END
オマケ
藤「あっ!!ニンジンが…タク−」
笠「自分で食べなよ?」
渋「そうだぞ、藤代。ちゃんと食べなさい。」/キャプスマ
三「残念だったな、バカ代」/デビスマ
藤「う〜…タクぅ〜」/泣き
笠「しょがないなぁ、半分だけだよ?」
藤「やった!タク大好き!!」
笠「オレもだよ、だから早く食べてね」/微笑
三「竹巳はバカ代に甘すぎんだよ」
渋「藤代、その半分食べてやるから、残りは早く食べろよ?」
藤「はーい」
三「竹巳、バカはほっといて部屋帰るか」
笠「はい、じゃぁ、お先に失礼しますね、キャプテン。後、それ以上甘やかしちゃ駄目ですよ?」
渋「わかっているよ、じゃぁ、おやすみ、笠井。と三上。」
藤「だべまじだぁーうぇーまずー」
松葉寮のこんな日常。著辰巳より抜粋。(笑)