昇る日
    〜触らないで〜
ガンっ!!

万作がドアが壊れるのではないかと言うくらいに、勢いよく圭の部屋のドアを開ける。

「何があったの!!?」
「大丈夫か!?圭!」

圭の部屋の中、ベットの上で自分を抱き締めるようにして座っている踊り子の子と、その子の前に立ち銃を構えている圭、それに圭の前に座り込んでしまっている猪口。猪口の両サイドには、圭が撃ったであろう弾の弾痕がある。
何があったのか全く理解できない二人は、だただたその状態を見つめて、立ち尽くしてしまった。

「…猪口、出てけ。」

怒気を孕んだ圭の声が低く響く。
猪口は逃げるようにして部屋を出て行った。
彼もこの暁の党の一員であるのにも関わらず、圭が彼に向けて発砲した。

「け…い…?」

ぴりぴりとした空気を纏っている圭に、万作が恐る恐る話し掛ける。
その声に圭が振り向く。

万作はハッとしたと同時に恐怖が背中を走り、心臓を強く掴んだ。
圭の目には光は無く、冷たく鮫のように死んだ目をしていた。完璧に敵を見る目だった。

圭はゆっくり目を閉じ、銃を腰元に収め、深く息を吐いた。それからまた、万作を見た。
その顔はいつもの圭と何ら変わり無いものだった。

「圭…どういうことだ?」

晃が怒ったように圭に話し掛ける。
その言葉の中には「仲間である猪口を何故撃った?」という響きがあった。

「こいつの悲鳴が聞こえて…思わず…」

悲鳴はこの踊り子のものだったようだ。踊り子はまだ、小さい体を更に小さくさせてカタカタと震えている。圭はただ守ろうとしたのだ。

「…彼女は…平気なの?」

万作が圭の後ろをそっと見る。
圭はゆっくりと後ろを向き、ベットの上に片足を掛け踊り子に手を伸ばした。

「大丈夫か…?」

万作も晃も驚くほどに、圭の声は優しく、甘いものだった。

「…ぅん…ぁりがとぅ…」

圭の手が、踊り子の頬を撫で、濡らしていた涙を拭った。
小さな声で礼を述べた。その声はどこか幼さの残る声で、圭を不安げに見つめる大きな目がより、踊り子を幼く見せていた。

「ねぇ、君…」
「っ!!」

万作が踊り子に話し掛けると、遠目にも解るくらいに踊り子はビクリと体を強張らせた。

「…;」
「…?」
「…」

今まで拒まれることのなかった万作は軽くショックを受けたと同時に、少し焦ってしまった。圭はきょとんと万作と踊り子を交互に見る。

「彼女の名前は?」

晃が、圭に向かって言葉を放った。

「あ…聞いてない。…なぁ、お前名前は?俺は圭。」
「…怜…」

圭の言葉には拒絶反応を起こさなかった。

「怜ちゃんは、踊り子なの…?」

万作がこれ以上ないほどに穏やかな声で、怜に話し掛ける。
怜は困った顔をしたまま、首を横に振った。しかし、怜の着ている服は踊り子や娼婦が着る様な、ふわふわとした布が腰に巻かれたドレスの様なものだ。

「…何者…?」

晃がキツイ口調で怜に言う。怜が敵側の人間ならここには置いておけない。最悪殺してしまわなければ、自分達が危ないのだ。怜もそのことはわかった様で、ぽつぽつと話を始めた。





はい。またまた中途半端。そして怜登場。って一話目から出てたジャン!!
名前が登場ってことですよ。ははは(乾笑)
ちなみに猪口くんは怜に触れようとしただけです。
まぁ…そーゆー意味を含めてですけど…
怜については次の後書きで説明しますね?


2004/9/5   .t