ぶらり湯煙の旅   T
まったりゆったりと、電車に揺られて。
外を見れば何となく懐かしい気持ちになってしまうけれど、知らない街。
しかし、そんな風景に似合わない二人、…圭と怜。
周りにいる観光客は、年齢層がやや高いためか、二人を避けるように椅子に座っている。

「ぅゎぁ〜けぇ、何時着くの?」
「後…小1時間くれぇ」
「ぅ〜早く着かなぃかなぁ…そろそろ飽きてきちゃったょぉ(ノД`)」

圭が着ている服の裾を掴み、怜が駄々をこね始める。そんな怜の頭を圭が、ぽんぽんと軽く叩く。

「詩でも考えとけ」
「ぇ〜ャダぁ〜(>_<)けぇは退屈じゃねぇーの?」
「うん、怜見てるから」
「何か…ゃだなぁそれも…(-"-)」

コロコロと変わる怜の表情を見ているのは、圭にとって全く、飽きの来ないものだ。
今さっきも頬を膨らませて駄々をこねたり、泣く真似をしたり、今は眉間を寄せて顎に手を当てている。表情豊かとは言い難い圭からすれば、飽きる事なく、楽しいのだ。

「けぇ〜旅館?」
「予約したのは旅館だけど…いやとか?」

「違ぅょ〜気になっただけぇ〜早く着かなぃかなぁって思って」
「まだ時間かかるよ?」
「ぁー暇だなぁ」

暇と言う割に、怜は楽しそうだ。そもそも、圭からこの旅行(泊まり掛けのデート)を提案された時から怜のテンションは高い。更には自分の荷物を用意する以外は、圭が全部準備してくれているとなれば、直の事嬉しい。

「けぇ、何で急にぉ泊りデェトなの?」

きょとんと首を傾げ、無意識の上目使いで怜が圭に問う。

「俺の誕生日祝い」

つい先日が、圭の誕生日であり、その時はバンド全員で小さな(大変な事になったが)パーティーをした。

「…何で圭が全部用意しちゃってる訳(?_?)」
「気分。怜と二人きりになりたいし…」

圭の言葉にぱっと怜は頬を桜色に染めた。その後直ぐにきちんと圭の隣に座り直し、こてんと系の肩に怜は頭を預けた。
「ちょぉ嬉しぃ(>∪<)圭とぎゅぅーってしたぃし、ちゅぅもしたぃけど、電車だからこれで我慢するぅ(ゝv・)」

にこにことしながら、怜は自分の右手と圭の左手を絡めた。
圭も自分より小さな怜の手をぎゅっと握り返す。

「次、降りるから」
「ぅん(^-^)けぇ〜楽しみだね?」

にこにことしながら怜は手荷物を持ち直す。大きい荷物は予め圭が、旅館に送ってしまっているのだ。

電車を降りた二人は、ゆっくりと歩いて圭の予約した旅館に向かった。




「お待ちしておりました。濱田様」

膝を着いてお辞儀する若い女将。世間一般で言う美人若女将と言うやつだろう。「私、当旅館の女将、矢代がお部屋までご案内致します。」
音も無くスッと立ち上がった女将、矢代が怜と圭の前を歩く。

「けぇ…女将さん美人だから、この旅館にしたとかぁ(-"-)」

服の裾を引っ張りながら、小さな声で怜が圭に言う。圭は片口角を持ち上げ、怜の頭を撫でる。

「万ちゃんと晃さんに勧められたから。女将さん関係ないし?」
「けぇ、ごめん…疑った(>∩<)」

しょんぼりと肩を落とす怜を見て圭が、わしわしと髪を混ぜるようにして頭を撫でた。

「ちょっ!けぇ!!」
「柄じゃねぇだろ?」

「あ…あの…お部屋はこちらになりますので、御用があれば近くの者をお呼び下さいませ」

また深く頭を下げて矢代が部屋を出て行った。
怜はぐるりと部屋を見渡して、きゃっきゃっとはしゃいでいる。

「すごぃ〜(>∪<)旅館って感じ!!」
「はぁ?怜、それ意味かわんねぇよ」
「気分!てか雰囲気!」

とりあえず、圭は怜が楽しんでいると言うことで頭の中で整理する。
圭が頭の中で整理している中、怜は襖を開き、中から浴衣を取り出していた。

「けぇ〜浴衣!温泉!」

怜は二人分の浴衣や着替えを持ち、既に出入口の前にいる。

旅館に来たら落ち着くものではないのだろうか…と圭は眉間を寄せるが、怜が手招きをしているので、怜と共に温泉に向かった。






「ふぅo(>∀<)oぉ腹ぃっぱぃ〜」

「怜…よく入るな…その体に」

遠回しに小さいと言っているが、すこぶる機嫌のいい怜は気にしていない様だ。そればかりか、圭にべったりとくっついている。

「襲うぞ…?」
「きゃぁ〜けぇのェッチ〜(>∪<)」

本気のつもりで言った圭だったが、テンションと共に機嫌もいい怜には効果も何もあったもではない。
自分の腰に手を回し見上げてくる怜に、内心かなりの焦りを感じている。幸か不幸か気持ちが顔に出にくいため、怜にはそう感じとれ無いであろう。

「ふぁ〜…眠たくなってきたぁ…けぇ〜」
「……寝るか?」
「ん〜けぇ連れてって」

時々、本当にこいつは、自分より年上なのだろうかと真剣に圭は考えてしまう。実際に年上なのだが、普段の言動などからはそう思えない。

「よっ…と…」
「けぇ力持ちぃ〜」

怜を横抱き(お姫様抱っことも言う)にして圭は、襖を足で空けて布団まで運んだ。

「けぇ〜一緒に寝ょ?」
「はいはい」

怜は自分の被っている布団を少しめくり、圭が入るスペースを作る。
逆らわずに圭はそのスペースに体を入れた。

「けぇ〜ぉゃすみぃ」

「おやすみ、怜」


ちゅっと軽く唇を合わせ、怜は圭に抱き込まれる形で目を閉じた。






突発作品。メルマガで配信したのと同じやつ。
怜のテンションが可笑しいかもしれないが、俺の中の怜はいつでもこんな感じ。
圭がそれに動じないのがまたいいんだよ。

2004/9/1   .t