伝エ切レナイ透明ナ気持チ
某月某日。その日、都内に聳え立つ某超高級マンションの最上階に1人で住む三上の家で、武蔵森中等部のサッカー部のレギュラー    とは言っても、渋沢、中西、根岸、近藤、辰巳と悪友ばかりではあるが。その悪友プラス渋沢の恋人である藤代。    がプチ同窓会の要領で集まっていた。
藤代は19歳。他は22歳である。
渋沢は、実家の和菓子屋を継ぐための修行中。中西と根岸は大学に通っている。近藤はごく普通のサラリーマン。辰巳もサラリーマンではあるが、営業で外回りをしている。三上にいたっては、高校に入ってからコンピュータ関連の知り合いの会社にアルバイトしていたのから発展し、今では業界の人間はおろか、一般の人間も聞いたこのある某コンピュータ関連会社の重役をしている。

「しかし…無駄に広い家だよね…生活観ないし?」
中西が小さく嫌味をもらす。三上は何食わぬ顔で渋沢の作った料理をつついている。
「そーいや、渋沢。お前の恋人は?」
「誠二か?友達を連れてくると言っていたからな、少し遅れるんじゃないか?」
次々に出来上がった料理を運んでくる渋沢に対して、店を経営出来るのではないかと思ってしまう。中学時代よりも腕をさらに上げた渋沢の料理は、そんじょそこらの店よりも美味しい。

ピンポーン…ピンポーン…ピンポーン…ピンポーン…

落ち着いた音のはずのチャイムがけたたましく鳴り響く。オートロック式のエントランスホールから、藤代が鳴らしまくっているのだろう。
三上は乱暴に通話スイッチを押す。
「うっせーよ!!!一回で分かる!」
『じゃぁ早く開けてくださいよ』

ピピとオートロックの電動ドアの解除ボタンを押す。
「なら、きやがれ。」
『走っていくっす!』
走ってもエレベーターなので変わらないはずだ。



通常よりも早く藤代が玄関を、勢いよく開ける。
「かっつろーさぁーん!!!」
「ははは、早かったな誠二」
感動(?)の再開シーンを渾身の力で演じる藤代と、それを軽くあしらう程度の渋沢。
この関係が2人にはちょうどいいのだろう。
「あら、やだ…藤代の彼女?」
「何!?浮気なのか!!!?」
藤代の後ろに立っていた「女の子」に中西が話し掛ける。
「タクのことっすか?タクは男っすよ!」
藤代が必死に中西と渋沢に説明する中で、三上がタクと呼ばれた子の前に立つ。
「…へぇ…可愛い顔てんじゃん。名前は?」
「…///」
「え?タクの名前は、笠井 竹巳!」
ぱっと俯いてしまった笠井の代わりに藤代が答える。
そのあとで、「タクは人見知り激しいんすよ」とにかっと笑う。中西はもう飽きて、酒を飲みはじめている。渋沢も誤解が解決し、キッチンに戻っている。
「三上先輩、スケッチブックとペンないですか??」
「は…?いや有ると思うけどよ…」
「タクに渡してください」

意味の分からないまま三上はスケッチブックと何色かのペンを持って来、笠井に手渡した。
笠井は、そのスケッチブックにさらさらと文字を書く。

『ごめんなさい。話せないんです。』

書いた文字を三上に見せる。
少し、止まっていた三上がまた、口を開く。
「耳は?聞こえんの?」
こくこくと笠井が頷く。
笠井と藤代の説明によると。
笠井は、ある事件があってから、口が聞けなくなってしまったらしい。その事件については「親友」である藤代にも言えないことらしく、どんな事件か聞くのはタブーとなっていた。
もともとではなく、事件による精神的なものらしい。その証拠に、聞くことは出来るのだ。手話を読めるなら特に問題は無いのだが、そんな器用な奴はここにはいない、その為仕方なく、スケッチブックによる筆談になった。
スケッチブックに書かれた綺麗な文字。
三上たちに慣れてきたのか、にこりと微笑むコトも多くなった。料理は得意らしく、渋沢と一緒にキッチンに入って料理を作っている。三上の家に何故かおいてあったシンプルな水色のエプロンをつけた笠井は、少し長めの髪の助けも有ってかまさに「女の子」だ。身長も低いわけではないが、武蔵森サッカー部の面々からすれば、高くも無いのだ。それも笠井を可愛く見せる要因の一つなのだろう。
三上がぼうっとそんなことを考えていると、トントンと背中を叩かれた。
「ん?」
そこには、にこりと微笑んだ笠井と、その手に持たれているプリン。
きっと渋沢と共に、作ったのだろう。
笠井は微笑んだまま、無声ではあるが、言葉をつむぐ。
「ん?俺…?くれんの?」
先ほどの微笑みなんて、比にならないほど華やかな笑顔を向ける。

  やべぇ…まじ可愛い

珍しくもすんなり受け取ってしまった三上に、笠井はスプーンも一緒に渡す。
仕方なく、それを一口、口に運ぶ。
「お、美味い…」
笠井はまた、にっこりと微笑んだ。
「ちょっとー三上先輩!!タクに手ぇださないでくださいよ!!!?」
「…(まだ)出してねぇよ」
藤代が、笠井を抱きしめる。と言うよりか犬が飼い主にじゃれるように絡んでいる。
酒が入っているようだ。そんな藤代を、笠井はなれた手付きで、藤代をはがしキッチンに戻っていった。



結局、外が真っ暗になってから、近藤と辰巳が「明日仕事だから」と帰ったが、中西と根岸は用事も無いらしく泊まるコトにした。渋沢と藤代も同じくだ。笠井も藤代が泊まるので、泊まることになった。
幸いにも、使っていない部屋がたくさんある三上の家なので、1人一つのベットが割り当たった。各々酔いが回っているらしく「おやすみ」を口々に言い、割り当てられた部屋に入って行った。




コト…

「?」
何故か目が覚めてしまった三上は、リビング方面からの音に誘われるようにリビングに向かった。
そこには、水の入ったコップを手に持ち、窓際に置かれた小さめのラブソファーに座り、月を眺めている笠井がいた。

満月ではないが、綺麗な月明かりが笠井を照らし、どこか幻想的で儚い印象を三上に与えた。
このまま消えてしまうのではないかと。何故かしら泣いているのではないだろうかと。

「寝れねぇの?」
「!?」
三上の存在に気付いていなかったらしく、ぱっと勢いよく振り返った。ぱくぱくと口を動かす笠井に、三上は「わかんねぇって」とテーブルの上に置いたままだったスケッチブックとペンを渡した。

『起こしてしまいましたか?ごめんなさい。』
「いや、たまたま。目ぇ覚めただけ」
『誠二の先輩だから、もっと明るい人かと思ってました。』
くすりと笑ったような気がした。実際に、笠井は微笑んでいるのだけど、声が聞こえた気がしたのだ。
「あいつは五月蝿過ぎだろ?俺ももっと騒がしい奴かと思ってたぜ?」
『明るくていいじゃないですか?誠二の明るさに励まされたりしましたし。』
「確かに、落ち込めねぇよな」
声はなくともくすくすと笑い合った。
それから暫らく、笠井と話していたが笠井が小さな欠伸をしたことにより「もう寝る?」と珍しい三上の心使いもあり、それぞれの部屋に戻った。




続きます。しょっぱなからラブラブしてるように見えますが、タラシの三上と天然の笠井による偶然です。(は?)
なぞの事件については後々、出てきますよ。ちょっとまぁ痛い感じかな?
めちゃめちゃパロですが、読んでやってくださいな!!

        2004/8/30   .t